2009.12.19

1日構造塾 番外編  座談会レポート

レクチャーの後、 鈴木啓氏、森昌樹氏とで交わされた座談会内容をお伝えします。

鈴木啓(鈴木啓/ASA)
森昌樹(Morii's Atelier)

 

座談会

「構造設計者は浮気してもいいパートナー」とよく言っています
(鈴木)

司会ー今回、森さんと鈴木さんは初対面になります。面識のない森さんと鈴木さんにお越し頂き、建築家と構造家が初めて会った時にどういう会話をするのか。聞きに来た方にも会話に入ってもらいながら進めたいと思いますのでよろしくお願いします。

実際仕事が始まって、例えば建築家の方から仕事を頼む事になると思うんです。大方雑誌やWebで見る情報しかないだろうし、構造設計者はオープンハウスにもいないことが多いので、第三者的に話を聞く機会もそうないと思います。正直、予算の苦しいプロジェクトの時には、知り合いの方にすがるしかない。独立したては、以前所属していた事務所の流れでお世話になった方にお願いする、という方が多半なのではないですか?


鈴木ー自分も割と若い建築家と一緒にやっているので設計料の厳しい依頼も多いです。 住宅設計が中心ですが、それなりの規模のものもやりたいと思っています。大きな仕事は、住宅よりはチャレンジ出来る事もあるので、一生懸命、住宅をやっていますが、付き合いのある建築家が大きい建物を設計する時、あー、違う人に行っちゃったみたいな事も有ったりしますね。

構造設計者は普段からの人間関係で仕事をする。「構造設計者は浮気してもいいパートナー」とよく言っています。お互いの信頼関係で、そのプロジェクトのパートナーとして建築家が依頼したからには、途中でダメかなと思っても、最後までやろうよと思っています。なので、構造設計料も大切ですが、気持ちで仕事している部分もあると思うのです。だから、今回はこれしか(お金を)出せないですと言われるとそこで終わりになってしまうので、本当はこれくらい必要ですという話をして、後はご相談で決めましょうと言って進めている。お金がないので、今回は一緒に出来ませんというのも寂しいので、そういう時は相談しましょうと言っています。

私の場合は、最近は紹介で依頼される事もあります。HPを持っていないので、連絡が取りたいがどうやっても連絡先が見つからないと、ある建築家さんに言われた事があります。その人は、普段私と一緒に仕事している建築家さんに飛び込みで連絡先を教えて下さいと言って教えてもらったそうです。そうやってお会いする時は、お互い緊張してお見合い状態です。

 

物件毎に構造家を変えてしまうと端から見て浮気性だと思われるのではないか(森)

司会ー建築家側からすると飛び込みで構造家に直接連絡してもいいはずです。その反面、施主は建築家に飛び込みで依頼する事が多いと思います。そう考えると、施主の方が勇気がありますね。

とは言え、初めて会う方に安易に依頼ができるという事柄でもない事は理解できます。先ほどのお見合いの話ではありませんが、初見でいきなりプロジェクトの話から入るのではなく、「自分は今までこういう事をやっています」といった話をしてもらう位でよいという事でしょうか。 そうして何人かの構造家と会い、プロジェクトに沿うかどうかをきちんと吟味してから依頼する方がいいのではないかと感じました。


森ー普段、構造家を見ていて思うのは、色々な建築家と仕事をされているので、多くの考え方に触れる機会があって、新しい刺激をたくさん受けられることが羨ましいです。


鈴木ー仕事の数もやはり多いですし、建築家さんはひとつの物件に集中していますが、自分達はいろんなプロジェクトで沢山の刺激をいつも頂く事ができるので、楽しい事を味わせてもらっているという感じです。


森ー 先ほどの話しに少し戻りますが、建築家の場合、物件ごとに構造家を変えてしまうと端から見て浮気性だと思われるのではないかと危惧したりします。


鈴木ー自分は、普段から一緒に仕事している建築家さんの依頼は、極力断らないようにしているのですが、スケジュールについてはしっかり希望を言わせてもらっています。それから、一緒にやっていながら思った事を言わないと損だと思っているので極力、言う様にしています。それで次が無かったりした事もありますが、それはしょうがないので、依頼されたものにベストを尽くしています。



photo:(c)鈴木啓/ASA

何か面白い事をやってくださいと言ってくる人は困っちゃいますね(鈴木)

森ー下品な話になってしまいますが、どの時点で設計料が発生すると思ってよいでしょうか?

鈴木ー色々ですが、途中で中止になってしまった場合など、建築家さんもお金をもらっていない時は、勿論自分も頂けないです。建築家さんが設計料をもらっているが中止になってしまった場合、設計料払いますよと言ってくれる時もありますが、絶対的に初期の時点では建築家さんの方がエネルギーを多く使っているので遠慮する事もあります。

コンペは基本的には1位にならないと駄目だと考えています。先日も海外のコンペがありましたが、結局2位で負けてしまいました。その時は、建築家さん
はとても膨大なエネルギー使っているし、自分より大変でしょうから、払いますよと言われましたが遠慮して断りました。なので、飛行機代やホテル代は自腹ですね。楽しい経験をさせてもらってありがとうございましたということですね。結局、気持ちの問題になってくるかと思います。

みんなもそうだと思うのですが、素直に言ってきてくれたらこちらも真摯な態度になるし、ずるい事されたら、言いたいことは言いますし、割と戦うんです、私の場合。


森ー真摯な応対をして頂けるのならば、こちらも紳士にお答えします。ということですよね。
構造設計者として、仕事しやすい建築家ってどんな方ですか?

鈴木ーそういうのはあまり無いですが、何か面白い事をやってくださいと言ってくる人は困っちゃいますね。ある程度、建築家さんがイメージみたいなものを持っていないと、こちらもそこから発展したり、展開する所があるので、いきなりでは難しいですね。逆に構造家に対して言いたい事や理想の構造家などありますか。


森ー自分とはまったく考え方の異なる方、かな?ただ、コミュニケーションを取りたがらない人はやりづらいですね。計算だけして、そこから先に進もうとしてくれない方ですね。




photo:(c)鈴木啓/ASA

就職希望の学生を見つけるのはすごく大変です(鈴木)

鈴木ーそういう人もいますね。構造設計者にも、2つのタイプに分かれると思います。皆さんがよく名前を知っているような構造家のタイプと、マンションの様な建物を平米いくらで仕事をする人達。計算だけして監理もしないで、部材が大丈夫かどうかだけの判断をする。そういう人達の座談会をつい最近読んだりしましたが、我々はあの人達とは違うからみたいな感じで、あまり生産的でない様に感じました。

あるデベロッパーの仕事をした時にも、着工して配筋検査に行くと、何か問題があったのかとびっくりされた。今まで配筋検査なんかしたことなかったと言われました。世間では、設計者が現場監理しない仕事も多いようで、そのシステムが悪い方向に走ってしまったと思っています。それを補うために法改正がフォーカスされてしまった。結局の所、今まで真面目に取り組んでいた設計者にとっては、やることが増えてしまった。

私が就職する時なんかは、佐々木睦朗さんの事務所に決まった時に、友人にどうしちゃったのと言われました。仙台メディアテーク以降、世間に知られるようになりましたが、当時、学生はほとんど誰も知らなかったです。大手ゼネコンや組織事務所の推薦枠とかが有るのにとか。うちの事務所なんかも就職希望の学生を見つけるのはすごく大変です。仕掛け網をかけて捕まえたい位。どうしたら見つけられるのだろうという感じ。佐々木さんにそういう話をすると僕の事務所に来たいって言う学生は、沢山いるけどなとか言われてしまいますが。


聴講者鈴木さんの事務所のスタッフは構造系出身者が多いのでしょうか。

鈴木ー意匠研出身で構造設計をやりたいって人も受け入れています。今、事務所には学部は歴史研、大学院は構造系研究室出身のスタッフもいます。大学の研究室での数年間というのはとても密度濃い時間ですが、実務で取り返せると思っています。その後、40年も続けていくわけですから。

大手の設計事務所やゼネコンが、最近少し変わってきたなと思っていて、色んな面白い試みをしようとしている様に感じます。昔は、高くて大きい建物を設計しているだけという印象だったのですが、社会的にもますます活躍して組織力が大きくて負けてしまうので、危険を感じています。うっかりしているとこちらは住宅しかできなくなってしまう。構造技術的な試みを常に試してみたいなという気持ちはあります。



photo:(c)鈴木啓/ASA


聴講者ーアトリエ系出身の建築家、構造家は出身事務所の存在が大きいと思うのですが?

森ー以前は前の事務所でやっていた事は絶対にやらないと意固地になっていた時期もありましたが、やはり無理ですね。そこでの経験が今の自分を形成しているのだと自分に言い聞かせています。

鈴木ー私は、一生、佐々木さんに見られているような気がしてしまう。変な事をしていると怒られるとか。佐々木さんは哲学者みたいな人で、倫理を重んじてやっている方なので、今もまだ自分の設計を佐々木さんにどうしたら怒られないかという事を常に思っています。

森ーどういったことで?

鈴木ー佐々木さんの美学に反したことをやっていると気になりますね。

聴講者ー鈴木さんのおっしゃる美学とは具体的にどういった事ですか?

鈴木ー難しいのですけど、具体的な話ではないのですが、とても原理原則を重んじている方なので、そこから外れると怒られたりする気がします。安易な方向に走っていくと怒られたりします。今だに佐々木さんの○×に外れたりすると怒られたりもします。
案外、設計をやっている時は忘れちゃうのですが、一段落した時にふと思うのですよね、あー、この判断は怒られるかなとか。佐々木さんに見せられるかなとか。

森ー佐々木さんが嫌がることイコール鈴木さんの嫌なものなのでしょうか?

鈴木ー徹底的にたたき込まれていますから、似たようなものになっていると思います。


photo:(c)鈴木啓/ASA

ある程度初期の段階からの方がいいですよね(鈴木)

森ー構造設計は、どの時点から参加されるのでしょうか?

鈴木ースケッチの段階から参加する場合もあるし、ある程度ちゃんとした図面が出来上がってからこれやりたいのですけど、という形で始まることもあります。そういう場合は、次はもう少し早い段階から一緒にやりましょうという話をします。

森ーどちらのほうが遣り易いのでしょうか?

鈴木ーやはり、ある程度初期の段階からの方がいいですよね。何故、こうなっているのかなど自分でも理解しやすいですから。建築家の苦悩を知った上で進めたいと思いますし。

森ーこちらとしても、更地の状態からお話をしたいのは山々なのですが、形になっていないものを持ち込んでも失礼かなと遠慮してしまいます。だから、構造家からそう言っていただけると心強いです。

鈴木ー進み過ぎちゃっていると嫌ですよね。もう戻れないところまで来てしまっているとどうにもなりませんよね。



一番近い存在でいてくれる構造家に相談することは、最良の捌け口です (森)


聴講者プロジェクトが進行当初の場合、なかなか構造の話までは進みません。そのような場合どういった話をされるのですか。

鈴木ー確かに、更地の段階では構造の話はしませんね。そのときは設計者の話を聞いているだけで、設計者がどういうふうに考えているのかをただただ聞くだけです。

森ー竣工するまでは、誰にもプロジェクトについての相談ができず、悶々とした日々を送るので、最初から一番近い存在でいてくれる構造家に相談することは、最良の捌け口です。


photo:(c)鈴木啓/ASA

建築家を批判しながら励ましてあげなさいとよく言われました(鈴木)

鈴木ー建築家を批判しながら励ましてあげなさいとよく言われました。
いろんな知識とか施工性の話とかアドバイスも含めて。とりあえず、最初の時から、声かけて頂けると嬉しいですよね。でも、いつもやっているからという関係では、やりたくないと思っています。毎回、それで完結っていう事で。継続しながらも、時々頼むという関係でも良いのではないかと思っています。

聴講者ー今までのお話を伺っていて、構造家の方はあまり自分から主張されないという印象を受けました。構造家の方は、個性をあまり表に出さない様にしているのでしょうか?

鈴木ー個性を消すというと大袈裟でしょうが、構造家の個性が100%作品に反映する訳でもないと思います。私の場合、主張しつつも協調して、最終的には建築家に合わせている所はあります。

森ー鈴木さんが佐々木さんから多大な影響を受けたように、鈴木さんからスタッフの方にも相当な影響を与えているのでしょうね。






鈴木ーいろんな事を吸収してもらいたいから、自分の経験談もたくさん話します。構造家が建築家と運命共同体になるのと一緒で、あなたもうちに来たからには、同じ思想を持って、ここで頑張りなさいという気持ちでスタッフには接しています。

森ー近い将来、構造家として挑戦してみたいということは具体的にありますか?

鈴木ーそこまで強い物はないので、設計は建築家との会話の中で少しずつ前後左右に進んでいきます。だから時々建築家に言われる、なにかやりたい事ないですか、というのは困ってしまいますが、ちょっとした話題の中から産まれるアイデアを見いだせたらいいかなとは思います。また、いつも情報を幅広く吸収しておいて、いつでもそれを使えるようにしたいと思っています。引き出しにたくさん情報をしまっておくようにしています。





■ プロフィール
構造家 鈴木啓氏/ASA
佐々木睦朗構造計画研究所、池田昌弘建築研究所を経て、鈴木啓/ASA設立。
現在、(仮称)塩尻市市民交流センターなど多数注目プロジェクトが進行中。

鈴木啓さんに関するウェブサイト
http://www.ouvi.nu/jyuku/ichinichi/2009/0902.html



■ プロフィール
建築家 森昌樹氏/Morii's atelier
青木淳建築計画事務所を経て、西片建築設計事務所共同設立。
代表作「淡路町の家」で、2004年東京建築士会住宅建築賞金賞。
現在は、Morii's atelierとして活動中。

森昌樹さんに関するウェブサイト 
http://architecturephoto.net/jp/2008/09/moriisatelierouvim_1.html
http://www.dezeen.com/2009/08/12/m-house-by-ouvi-and-moriis-atelier/

 

 

 

 

 



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